認知症

年齢を重ねていくと「あら!?」という感じの物忘れが起るようになってきます。
しかし、年齢を重ねることによって起る「物忘れ」と認知症の本人の自覚症状は全く違うのです。
現代の医学では、認知症の発見が早ければ、進行を停滞させることも可能になってきました。
不治の病の認知症ですが、進行を遅らせ、日常生活に支障が出ないまま寿命を全うできれば完治させたも同然です。
この記事では、認知症の早期発見のために、「単なる物忘れ」と「認知症」の違いと代表的な三大認知症の特徴について紹介します。

1.「認知症」とは?

認知症は、何らかの病気によって、脳の神経細胞が壊れたことが原因で起るさまざまな症状の総称をいいます。
認知症の初期症状の場合、一見老化による物忘れと似たように周囲からは見えるのですが、本人の感覚には、加齢による「物忘れ」と決定的に異なる状況があります。
【表1】でその決定的な違いを比較して見ました。

表1

本人の感覚としては、「忘れた自覚が全く無い」、いくら周囲から言われても、キツネにつままれたような感じがするのです。
しかし、記憶が抜け落ちている事を伝えるのも恥ずかしく、あるいは自信がなくて、笑って誤魔化してしまいます。
一方、加齢による「物忘れ」は、いくら忘れていても、周囲から前後の様々な状況を教えてもらうと、だんだん思い出すことができますので、本人にとっては安心できるのです。
例を上げて説明しましょう。

<物忘れ:例>
突然自分が何をしていたかを忘れても、考え込んでいるうちに思い出せる。

<認知症:例>
自分が何をしているのかがわからなくなって、声をかけられても、次の瞬間、わからなくなった事を完全に忘れて、次のことをし始めます。
周囲からやっていないことを指摘されても、いつもなら習慣的にやっていることなのに、どうして今日はやっていないのかがわからない状況に陥り、漠然とした不安が残る。

不安の感じる物忘れでも、神経質にとらえすぎている場合もあるので、少しでも不安に思ったら「物忘れ外来」の医師に相談してみましょう。
認知症の場合は、検査をすればすぐに診断が下されます。検査をして、認知症でなければ安心ですし、認知症でも早期発見なら進行を停滞させる投薬治療によって、そのままの生活を維持できり可能性が高まります。

2.三大認知症について

(1)アルツハイマー型

アルツハイマー型認知症とは、最も知られている認知症で、日本人の認知症の半数がアルツハイマー型だといわれています。
アルツハイマー認知症の原因は、脳内に異常なタンパク質がたまることによって、脳細胞が萎縮してしまう病気です。
この脳の萎縮は、MRIの画像ですぐにわかります。
統計的なデータですが、認知症は男性よりも女性の方が多いといわれています。

認知機能の障害

脳の記憶を司る「海馬」から萎縮が始まりますので、アルツハイマー型認知症の初期症状は、「物忘れ」から始まるのです。
進行していくと、食事をしたことや日付、昼か夜か、自分のいる場所、家族の顔、家族の記憶、このように、日常的なことから忘れていくといわれています。
近い記憶から忘れていくので、夫や子供、大切な人の記憶がなくなっていきます。
この状況に周囲はかなりショックを受け、受け止めるのが辛くなることも多いと聞きます。
しかし、大切な人の記憶は、脳の記憶の部屋の一番手前にあるのですから、手前の記憶から消失していっているに過ぎないのです。
だから記憶の部屋の奥の奥にしまってある、昔の記憶や昔の知人の記憶が最後まで残っているというわけです。
こんなふうに医師にも説明を受けると思いますが、大切な人に忘却されてしまった周囲の人にとっては、悲しみが先に立って、気持ちがついていかないことも多いようです。
こうして、認知症が進んでいくと、記憶だけでなく、判断力や思考能力も低下していくので、相手の言ったことを理解できなくなったり、計算できなくなったり、日常的な家事や服を着替えたりお風呂に入ったりする事もできなくなっていきます。

BPSD(行動や心理に現れる症状)

アルツハイマー型認知症が進行していく過程で、ボウッとすることが多くなったり、徘徊してしまったり、躁鬱状態が激しくなったり、ときには暴力を振るったり、暴れたりすることもあります。
人によって症状は様々です。

身体面の症状

かなり進行してしまうまで、家事やお風呂やトイレといった自分のことはできますが、判断力が薄れてくるに従って、できないことが増えていきます。

周囲の対応の仕方

例えば「財布が無くなった」「ご飯を食べていない」と言われたら、否定しないで聞いてあげましょう。
いくら否定しても、記憶が完全に欠落していますので、疑心暗鬼に陥って、ますます症状が悪化していきます。
認知症の人が、財布が無くなったと思ったときに、疑心暗鬼に陥ってしまったら、隠されたとか盗まれたとか言ってしまいます。
これは病気相和せているだけのことですから、難しいかもしれませんが、反論や否定をするのではなく、一緒に探して見つけてあげましょう。「ご飯を食べていない」と言われたら、「これから食べよう」と言って少しだけ出すか、準備をするふりをして、忘れてしまうのを待つのが得策です。
また、同じ事を何度も何度も言っていたとしても、初めて聞いたように話を合わせてあげましょう。
患者さんの性格にもよりますが、本人は記憶の欠落によりキツネにつままれたような感じなのですから、否定されると落ち込んでウツ状態になってしまったり、疑心暗鬼になって暴れ出したり、症状の悪化を招いてしまうこともあります。
認知症は、安心させてあげることが何よりの治療です。

(2)ルビー小体型認知症

脳内に「ルビー小体」という異常なタンパク質がたまって、脳細胞を死滅させていく進行性の認知症です。
アルツハイマー型認知症の異常なタンパク質とは、タンパク質の種類が異なります。21世紀に入る少し前、1990年代後半に発見されたばかりの認知症で、比較的新しい病気です。
アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで多い認知症で、認知症の2割程度です。そして女性よりも男性の方がやや多く、70代後半くらいの比較的高齢の方に多く発症する傾向があります。
アルツハイマー型認知症のような、はっきりと脳が萎縮しているといったMRI画像による診断は難しいといわれています。
この認知症の恐いところは、パーキンソン症状が出ることです。認知機能の症状から順を追って説明しましょう。

認知機能の症状に変動がある

ルビー小体型認知症の認知機能の障害の特徴は、認知症状の悪いときと良い時との変動が大きいことです。時間や場所、周囲の状況に対する反応や会話の理解力に、良いときと悪いときの変動があるのです。
アルツハイマー型認知症に比べると、物忘れの症状が軽いといわれています。しかし、症状が進行するにつれて、認知の変動はなくなり、常に認知障害が全面的に表に現れるようになっていきます。

幻視症状

多くの場合夜間に起ることが多いようですが、いないはずの「人や子供が見える」といったことを言う患者さんが多いようです。

パーキンソン症状

初期状態では、身体が固くなったり、表情が硬くなったり、動きがぎこちなくなったりし始めます。このような状態ですから、だんだん身体を動かさなくなっていきます。
姿勢が妙に前屈みになったり、妙に小股でチョコチョコ歩いたり、歩いていたらどんどん突進していって止まれなくなってしまうようなこともあります。症状が進むにつれて、歩行が困難になって、最終的には車椅子が手放せなくなり、だんだんと日常生活に困難をきたすようになります。

その他症状

自律神経のバランスを乱し、便秘になったり、立ちくらみや失神が起ることもあります。家族が偽物だと思ったり、自分の家でないと思ったりする人もいるようです。統合失調症のような精神症状も現れますので、幻聴や妄想の精神疾患に効く投薬治療も必要になっていきます。
しかし、これらの薬の副作用が現れることもあるので、医師の定期的な診断による投薬管理が必要です。希に、レム睡眠障害を起こし、眠っているのに夢と同じ行動を実際に行ってしまいます。
通常夢はレム睡眠(浅い眠り)の時に見ると言われています。レム睡眠時に脳が昼間五感でとらえた情報を整理整頓して記憶として定着させる作業(記憶の整理)を行う際の副産物が夢だといわれています。
このとき健康な人の場合、筋肉は寝返りを打てる程度に弛緩しているはずなので、身体は夢と同じ行動をすることはありません。
しかし、レム睡眠障害の人は、夢の中でバンザイをすれば、眠りながらバンザイをするし、大きな声で「バンザイ!」とはっきり聞こえる大声寝言を言ったりするのです。

(3)血管性認知症

脳梗塞やくも膜下出血、脳出血を起こしてしまうと、血管が破裂したその先の血管には血液が送られなくなり、その部分の神経細胞には栄養分や酸素が送られなくなって神経細胞が死滅してしまいます。
神経細胞が死滅してしまった部分の機能が失われて、認知症のさまざまな症状が出てくることがあります。いわゆる脳出血による後遺障害のひとつとしての認知症を、「血管性認知症」というのです。
昔は、高血圧や糖尿病、脂質異常症等の患者さんがよくなる認知症として認知症の第1位を占めていました。しかし最近では、成人病疾患の注意喚起が進み、同時に医学の進歩によって、100人に2人くらいの発症率となりました。
脳出血を起こす原因疾患は、女性よりも男性に多く発症するといわれていて、年齢的には60代・70代が多いといわれています。
さらに、少数だといわれている65歳未満の若年性認知症の約40%もの患者さんが、脳出血による後遺症として血管性認知症になった人だというデータもあります。いわゆる、脳出血が原因の後遺症状の認知症ですから、血管が詰まって血管が破裂した場所によっても症状も進行度合いも異なります。
認知症の治療ももちろんですが、一度この認知症になった方は、体質的に血管が詰まりやすい状態にありますので、血管が詰まる前の原因疾患をちゃんと治療・コントロールをすることで、再度血管が詰まる状態を起らないように医師の管理・指導が必要となります。

まとめ

いかがでしたか?
認知症は、早期発見がその後の人生を決めます。
ですから、早めに「自分が認知症の疑いがあるのではないか」と医師に相談することが、認知症の症状の進行を止める何よりの方法なのです。
「認知症であることを認めたくない」という本人や周囲の感情が、発見を遅らせ、症状を進行させてしまうのです。
全ての病気が、早期発見早期治療が基本です。
少しでも心当たりがある人やそのご家族は、医師に相談してみましょう。
認知症は、周囲の優しい対応が進行を遅らせることも多いといわれています。
「認知症になっても大丈夫!」そう思わせる環境作りも重要なようです。
本人の何となくの物忘れ不安を打ち明ける環境が治療の始まりとなるからです。