漢方は不眠に効果あり?西洋医学と異なる考え方
「不眠の治療を神経科や心療内科で受けているけれども改善の兆しがない」「処方される薬が前より効かなくなってきた」というようなお悩みをお持ちの方は多いはずです。違ったアプローチとして漢方薬を試すという方法があります。西洋医学とは全く考え方が異なりますので、これまでの治療法に満足できない方は一度試してみるのもいいのではないでしょうか。
漢方における不眠とは
漢方では「気血水」という考え方があります。これは人間の体は以下の3つで構成されているという考え方です。
気:人間の身体を循環している生命エネルギー
血:血液および栄養分
水:体内の水分
不眠はこのうち気と血の乱れによって引き起こされると考えられています。
また、五行説では木火土金水の5つの要素に分けて季節や体内の臓器を論じますが、このうち木火土はそれぞれ肝心脾にあたります。
肝心脾と言っても西洋医学でいう肝臓、心臓、脾臓ではなく、漢方における体内のざっくりとした分類と考えてください。心は心臓および精神中枢としての機能を指します。肝は心に送る血液を貯蔵しています。脾は栄養を吸収して血液と水分を作り出す機能を指します。
この肝心脾は季節でいうと春・夏・土用にあたり特に春は肝の働きが不安定になり、それによって前述の気と血にも悪い影響が出やすいといいます。
漢方においては気血水、五行説を基盤に体内全体のバランスを整えることで不眠を解消します。西洋医学の場合、不眠に対して投薬等で直接治療を試みますが、漢方は考え方が全く異なるのです。
不眠のタイプ別分類
漢方における不眠も症状によって分類があります。不眠に加えて他にどんな症状があるのかを複合的に見ていくのが特徴です。
・心脾両虚
寝つきの悪さ、浅い眠り、夢を多く見るのが特徴です。さらに日中は動悸や食欲不振、食後の腹部膨満、顔色の悪さなども発生します。
・心腎不交
たくさん寝汗をかくのが特徴です。手のひら足の裏の熱感、やたら喉が渇く、耳鳴りや腰痛、イライラや物忘れなども発生します。
・肝欝血虚
寝つきの悪さ、夢を多く見るのが特徴です。驚きやすくなったりイライラやため息、怒りっぽくなります。
・痰熱内擾
イライラ、頭痛に加え、めまいや口内の苦さが特徴です。
・胃気不和
食事後に腹部膨満、吐き気を感じる、嘔吐やゲップが出やすい、お腹を下してしまうという特徴があります。
不眠に効く漢方薬
漢方医は上記の分類から適切な配合の漢方薬を処方します。不眠以外の症状によって処方する漢方薬が大きく左右されるのが特徴です。症状別に不眠症で処方される漢方薬をご紹介します。
・柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
不眠症で、冷え性や貧血、神経過敏、寝汗や頭部の発汗、口の渇きなどの症状がある場合に用いられます。更年期障害や気管支炎などにも用いられる漢方薬です。
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
不眠症で、精神不安の患者に用いられます。動悸や便秘、小児夜泣きにも用いられる漢方薬です。
・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
不眠症で、イライラや顔色の赤い場合に用いられます。胃炎、二日酔い、更年期障害、めまい、口内炎、皮膚炎などにも用いられる漢方薬です。
・抑肝散(よくかんさん)
不眠症で、神経の高ぶり、イライラがある場合に用いられます。更年期障害や小児疳症などにも用いられる漢方薬です。
・逍遙散(しょうようさん)
不眠症で、疲労しやすく精神不安があり、便秘が見られる患者に用いられます。虚弱体質や月経不順、更年期障害などにも用いられる漢方薬です。
・三物黄芩湯(さんもつおうごんとう)
不眠症で、手足が熱を持っている場合に用いられます。皮膚炎や湿疹にも用いられる漢方薬です。
・酸棗仁湯(さんそうにんとう)
不眠症で、心身疲労や精神不安がある場合に用いられます。
・桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
不眠症で、神経過敏や疲れやすい場合に用いられます。貧血等にも用いられる漢方薬です。
・帰脾湯(きひとう)
不眠症で、心身疲労、血色が悪い場合に用いられます。貧血などにも用いられる漢方薬です。
・甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
不眠症で、神経過敏やあくびがある場合に用いられます。子供の夜泣きやひき付けにも用いられる漢方薬です。
・甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)
不眠症で、下痢や嘔吐感、やたら腹が鳴る、みぞおちの違和感がある場合に用いられます。胃腸炎や口内炎、下痢などにも持ちられる漢方薬です。
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
不眠症で、イライラや精神不安、疲れやすく肩がこる、便秘傾向の場合に用いられます。冷え性や虚弱体質、月経不順、更年期障害にも用いられる漢方薬です。
・加味帰脾湯(かみきひとう)
不眠症で、熱っぽく心身疲労や血色の悪さがある場合に用いられます。貧血などにも用いられる漢方薬です。
・加味温胆湯(かみうんたんとう)
不眠症で、胃腸が弱い場合に用いられます。
・黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)
不眠症で、胸の苦しさがあり、冷えやすくのぼせやすい場合に用いられます。皮膚のかゆみや乾燥型の湿疹、鼻血にも用いられる漢方薬です。
・抑肝散加芍薬黄連(よくかんさんかしゃくやくおうれん)
不眠症で、イライラする、怒りやすい、神経が高ぶる場合に用いられます。更年期障害や小児疳症にも用いられる漢方薬です。
漢方の実証・虚証とは
漢方医が患者を診断する上で重要なのが症状が実証・虚証いずれかなのかということです。
実証・虚証は漢方に関わっていると必ず出てくる言葉です。実証は体に外からの影響をたくさん受けている状態、虚証は体の中から多くが失われている状態を指します。
ですので、外部からの刺激によって興奮状態やイライラが高まっている状態であれば実証、気力が減退し疲れやすいような場合は虚証と診断されるということになります。もちろんこれだけでなく体の他の部分でも実証・虚証を診断していき総合的に判断するのです。
不眠症においても実証・虚証を診断し、上記のような不眠症薬の中からどれを処方するのか決まります。診断にあたっては西洋医学の医師とは違い、四診という方法をとります。一見関係なさそうな質問をしたり、舌や脈、お腹などを触診することで、不眠症が影響を及ぼしている場所を探っていくのです。
漢方の不眠は心身を一つとして扱う
西洋医学の場合は不眠というと睡眠薬や精神安定剤を処方するのが一般的です。しかし、漢方の場合は、心身一如といって精神的な不調と身体の不調を一つとして扱います。単純に睡眠を促す薬剤を処方するのではなく、不眠の原因を取り除くという発想で漢方薬を処方しているのです。
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